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2023年6月1日優生保護法訴訟仙台高裁判決に対する声明



2023年6月1日優生保護法訴訟仙台高裁判決に対する声明

              2023年6月6日

                    優生手術被害者とともに歩むみやぎの会

             強制不妊訴訟不当判決にともに立ち向かうプロジェクト


私たちは、2018年に仙台地裁で始まった、優生保護法被害者の国への謝罪と補償を求める闘いに伴走する学生・市民の有志です。同法が長年にわたって許してきた凄まじい人権侵害の歴史を学び、見過ごされてきた当事者の「人生被害」に向き合い、国の責任を問うとともに、二度と同じことを繰り返さないよう、地域社会での「共生」の実現を目指して活動をしています。

2023年6月1日、仙台高等裁判所第1民事部(石栗正子裁判長)は、優生保護法被害者である控訴人らの請求を棄却する判決を言い渡しました。国による深刻な人権侵害を前にしながら、その被害回復の責任を見逃す冷酷な判断に、最大限の表現をもって強く抗議します。

判決では、優生保護法が憲法14条1項に違反することを認めました。しかしながら、被害者が強制不妊手術の被害を受けてから20年以内に裁判を起こすことは、「客観的におよそ不可能でありまたはその行使の機会がなかったとまではいえない」とし、除斥期間の適用を認めました。

 一審判決以降、4年近くにわたり、控訴人らはさまざまな証拠や証言をもとに、除斥期間の適用が制限されるべきだと訴えてきました。にもかかわらず、被害者が裁判を起こせなかった事情は主観であり、客観的事実ではないと断じたのです。これは、時代背景や社会状況を無視した不合理な認定であり看過できません。控訴人らはいずれも15~16歳で、本人への説明もなく手術されており、当時は優生保護法による被害であることも知りませんでした。偶然家族の話によって不妊手術であったことを知ったからといって、その責任が国にあることを認識できるでしょうか。ましてや、不妊手術という極めてセンシティブな個人情報を30歳代半ばまでに弁護士等に告知し、同法の存在する差別的な時代に裁判を起こすなど不可能としか言いようがありません。

同法がなくなったあとも、本件の控訴人のひとりである飯塚淳子さん(仮名)は、証拠となる書類を手に入れることができませんでした。宮城県が本来保存すべき記録を焼却処分していたためです。法律家に相談をしても、「証拠がないので裁判をしても勝ち目がない」と言われていました。厚生省にも、「当時は合法・適法、謝罪も補償も調査もしない」と国の正当性を主張されました。このような状況のなかで、「制度さえあれば訴えられる」という論理はあまりにも非現実的であり、理不尽です。人権の砦であるはずの裁判所が、被害を訴えることの困難さに思いが至らないことに呆れ、激しい憤りを覚えます。

昨年の大阪高裁から続く7つの勝訴判決は、正義・公平の理念に基づき、被害者が裁判に訴え出ることが不可能であったことの原因や背景を丁寧に認定し、被害者の実態に即した判断をしてきました。今回の仙台高裁判決は、これらの判例の積み重ねを無視し、現実を見ない判決であり、到底受け入れることはできません。

そもそも、障害のある人や社会的弱者が意思表明する機会を奪われたり、やっとの思いで伝えた言葉をまともにとりあってもらえなかったりする状況は過去のものではありません。障害者差別解消法があっても、人生の重要な事柄を自己決定する機会が十分に保障されているとは言えない現状があります。また、本人には直接説明されず、隣にいる介助者や通訳者に向かって話しかけられる場面は多くの障害者が経験しています。何もできない存在として、まるでいないかのように扱われることは今日でも珍しくないのです。

6月1日の判決言い渡し期日において、裁判長は、眼前にいる控訴人に対して、控訴棄却の理由さえ説明しませんでした。まさに上記で示したことに通ずる、控訴人や障害者を含む多くの傍聴人を軽んじた態度であり、深い怒りと失望を感じています。こうした態度そのものが司法への信頼を損なうものであり、容易に訴えることができない現実を象徴しているかのようでした。

加えて、公表された判決文は、除斥期間の適用理由が示される部分において広範囲に黒くマスキングされており、読むことができなくなっています。弁護団によれば、その箇所で、控訴人の義姉を「義妹」と書き違えていることがわかりました。判決理由の根幹にかかわる部分を覆い隠したことは言語道断です。さらに、人物関係を誤って記載したまま気づかないことにも判決のずさんさが表れており、怒りを禁じ得ません。人を裁く立場にある裁判所や司法に携わる者は、自らの権力性・差別性を真摯に顧みて、目の前の当事者に誠実に向き合うべきです。

最後に強調すべきことは、このような許しがたい判決においても、優生保護法は憲法違反であり、被害は重大な人権侵害であったと認めている点です。国が被害回復から逃れ続けることは、何重もの人権侵害をいまだに続けていることにほかなりません。政府は、被害を訴える原告・控訴人らに会って話を聞き、一刻も早く直接謝罪をすべきです。また、現行の「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」の運用にとどまらない、すべての被害者に対して、その被害に見合う補償と尊厳回復の措置を求めます。さらには、被害の実態調査と検証を行い、広く公表するとともに、人権教育の強化等、社会に染み付いてしまった優生思想を取り除くための政策をより一層進めるよう強く要請します。


以上


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