報道でご存知のとおり、7月3日の最高裁判決は国に損害賠償を命じる素晴らしい勝訴判決でした。
ただ、飯塚さんと佐藤さんの事件については、賠償金額について高裁で審議をするよう、高裁に差し戻しとなっています。
20年の除斥期間は適用されないことになったので実質的に勝訴ですが、あと少し高裁で審理が行われることになります。
やっと司法が人権の砦としての役割を果たしてくれたことにホッとしました。
勇気をもって声をあげられた原告の方々の闘いに心から敬意を表します。
全国の弁護団や裁判を支えてこられたみなさまのご尽力にも感謝いたします。
さて、判決から2週間が経ってしまいましたが、
わたしたち「歩むみやぎの会」としての声明を発表します。
長いのですが、どうぞ読んでくだされば幸いです。
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2024年7月3日優生保護法訴訟最高裁判決に対する声明
2024年7月17日
優生手術被害者とともに歩むみやぎの会
私たちは、2018年に仙台地裁で始まった、優生保護法被害者の国への謝罪と補償を求める闘いに伴走する市民の有志です。同法が長年にわたって許してきた凄まじい人権侵害の歴史を学び、見過ごされてきた当事者の「人生被害」に向き合い、国の責任を問うとともに、二度と同じことを繰り返さないよう、地域社会での「共生」の実現を目指して活動をしています。
2024年7月3日、最高裁判所大法廷(戸倉三郎裁判長)は、裁判官の全員一致で、優生保護法被害者である原告らの損害賠償を国に命じる判決を下し、仙台の事件については、高裁判決が誤りであり、損害について高裁で審理をやり直すべきという判決を言い渡しました。
判決では、優生保護法は立法当時の社会状況を考えても不当であり、「個人の尊厳と人格の尊重の精神に明らかに反する」として、憲法13条、14条1項に違反することを認めました。また、明白に人権を侵害する法律をつくった国会議員の立法行為は違法だったとしました。
加えて、48年もの長い期間にわたって障害や病気のある人を差別して、多大な犠牲を求める施策を積極的に推進してきた国の責任は極めて重大であるとも述べています。そして、国が原告らの損害賠償請求権の消滅を主張するための根拠としてきた民法724条後段の解釈について、時間の壁である「除斥期間」を一律に適用してしまうと「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できない結果」になる場合があるとして、過去の最高裁判例を変更しました。そのうえで、国が20年の経過による損害賠償請求権の消滅を主張することは、「信義則に反し、権利の濫用として許されない」と厳しく断じたのです。これは、障害者差別や深刻な人権侵害である被害に長年向き合わず、時間の経過のみを理由として争いを長引かせてきた国への強い批判であり、この判断を高く評価します。
特筆すべきことは、優生保護法3条1項1号から3号で本人の同意を要件にしていることについて、このような差別的な不妊手術について本人に同意を求めること自体が「個人の尊厳と人格の尊重の精神に反し許されない」ことで、仮に同意があったとしても強制であることには変わりないとした点です。差別的な目的のための手術は、同意があったとしても人権侵害であることが明示されたという点で、非常に意義があります。
今回の最高裁判決は、これまでの被害者の渾身の訴えを受け止め、憲法の番人・人権の砦としての司法の役割を果たしたものといえます。とくに、被害が闇に葬られてはならないと、25年以上も声をあげ続けた飯塚淳子さん(仮名)と、何度面談をしても「当時は合法・適法だった」として一切動こうとしない国に対して最初に裁判をする決意をした佐藤由美さんと義姉の路子さん(いずれも仮名)の訴訟は、仙台地裁でも仙台高裁でも不当な判決だっただけに、最高裁が被害者のおかれてきた現実に向き合った判決を下したことに市民として安堵を覚えています。被害者の人権回復のための歩みに、ようやく司法が加わってくれた、という思いです。また、最高裁の審理における情報保障や環境整備についても一定の前進があったことを評価します。今後も、司法へのアクセスにはまだ障壁が多く存在することを自覚し、すべての人に平等に開かれた裁判所になるよう環境整備を速やかに進めることを期待します。
これまで私たちは、「優生保護法問題は終わっていない」と訴えてきました。判決を受け、国はようやく態度を変え、被害者に対する補償への歩みを始めたように見えます。まずは、優生保護法の被害は当然のことながら、長年放置したうえで、裁判でも長く苦しめてきたことについて、真摯な謝罪をすべきです。そして、国や国会が差別の歴史と深刻な被害の実態に向き合い、深い反省のうえに、裁判の原告に限らないすべての被害者に対して、その被害に見合う補償と尊厳回復の措置をとることを求めます。さらには、被害の実態調査と検証を行い、広く公表するとともに、人権教育の強化等、社会に染み付いてしまった優生思想を取り除くための政策をより一層進めるよう強く要請します。ことに、障害のあるなしにかかわらず、子どもを産むか産まないかを自分で決める権利、すなわち「性と生殖の健康/権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)」が尊重されるということが社会的に認知されるよう法に明記し、二度と同じようなことが繰り返されないようにすることが求められます。
7月3日の最高裁判決は、勇気を振り絞って声をあげた被害者が切り開いてきた道のうえにあります。優生保護法の被害の拡大には、地方自治体、医療・福祉業界、マスメディア、そして市民社会にも責任があることを忘れてはなりません。障害や病気のある人に「仕方がない」という思いをさせてきた社会が、被害を見過ごし、被害者を黙らせてきたのです。そのなかで声をあげた少数の被害者の訴えが、時間をかけて社会を変えてきました。この勇気と闘いに心から敬意を表します。そして、私たちも歴史に向き合い、当事者の声に耳を傾け、自分ごととして考え、同じ社会で共に生きることをとおして、命の価値の序列化に抗う「いのちを分けない社会」をめざします。
以上
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